第3代 代表理事 細谷 僚一
私が本学会の代表理事に就いたことについて多くの会員の皆様は驚いておられるのではないでしょうか。
その意外性の一つは、多くの会員の方々に私の存在はほとんど認知されていないと思われることです。前代表理事の大橋功先生のように幅広い人間関係のネットワークをもっているわけでもありませんし、昭和55年に31歳で本学会に入会した古参とはいえ、会誌編集や研究大会の会場設定、京都支部研究会の企画運営など、どちらかと言えば裏方の仕事を中心にやってきました。もう一つは、代表理事としての資格についてです。学会の代表理事や会長は大学の教授や名誉教授が着任されるのが通例です。専門学校に所属する者が就くことは、私の知る限りではありません。
本学会創設70周年記念京都大会において私は大会委員長及び基調提案をさせていただきました。実行委員をはじめ多くの会員の方々の協力の下、何とか無事に終えることができました。以前からこの大会を機会に私はすべてから身を引くつもりでいました。したがって、代表理事に就くという思いがけない展開に驚いているのは、誰よりも私自身です。
そうはいっても、一旦引き受けた以上、理事や委員の方々と力を合わせて本学会のビジョンを見据え、最善を尽くしたいと願っています。本学会は大きな過渡期に直面し、様々な課題が山積しているように感じています。組織運営を抜本的に見直し改善すること、新たな課題・新たな時代に対応した研究態勢を構築すること、美術教育を歴史的に俯瞰し分野横断的な観点で見渡すこと、研究と実践の往還によって質の高い研究を進めること、各支部の研究活動を活性化し連携協力を密にして相乗的な交流を日常化すること、会誌の投稿数を増やすとともにその記事内容の充実を図ること、学会ホームページのリニューアルとその有効活用を積極的に進めること、教育現場が疲弊し研究活動の劣化が余儀なくされている厳しい現状を踏まえ、積極的に保幼小中高の教員や大学の学生・院生にも研究会参加を促し併せて会員数を増やすこと、他の美術教育学会や教育に関する学会、異分野の学会活動にも関心を向けながら、美術教育3学会の連携・統合へのステップを歩み出すことなど、思いつくだけでも数限りなくあります。
とりわけ、当事者意識をもった会員の円滑な世代交代は、喫緊の課題だと思います。学術研究団体である学会は研究者の自主的な集まりで研究者自身の運営によるものです。つまり、営利団体でもない学会組織運営担当者は理事も含めていわばボランティアです。教育現場の多忙化や精神的な負担感も伴い「年会費を納めているからにはサービスを受けるのが当然」という誤った考え方が、近年定着してきているように感じられます。
そういった現状を打ち破るには、何よりもそれぞれの会員の知的探究心や教育者としての情熱を駆り立てるような魅力ある研究の場を創り上げていかなければなりません。美術教育が社会から葬られ「化石」のようになってしまわないために、美術教育担当者の潜在する研究への飢えと渇きに応え、暗闇で模索し苦闘する足元に光明を照らし実践者・研究者を呼び込む求心力と広く発信する力を兼ね備え、本学会をこれからの美術教育を牽引する拠点にしたいものです。
2023年7月31日
(京都デザイン&テクノロジー専門学校校長)